「面白い恋人」に “商い”をみた


 「面白い恋人」は関西6府県(大阪府、京都府、兵庫県、滋賀県、奈良県、和歌山県)限定で販売している(ネット通販もしていない)菓子で、関西出張の際にお土産で購入した人もいると思う。

 この商品名は、石屋製菓株式会社(本社:札幌市)が1976年から製造販売している全国的に有名な銘菓「白い恋人」の商品名をもじったものである。


 よしもとクリエイティブ・エージェンシー(現吉本興業)が企画しサンタプラネット(本社:大阪市)が2010年から販売している。

【チェックポイント】
・石屋製菓側から販売差し止め請求が行われる可能性についてどの程度吉本側は検討していたのか。
・商品販売に踏み切ったのは成算があってのことか。

 しかしながら「面白い恋人」は商標権を取得していない。

 2010年8月に吉本倶楽部を出願人として商標登録出願したが、2011年2月に商標法4条1項7号(公序良俗違反)に該当するとして拒絶された。

【チェックポイント】
・第三者からみても「面白い恋人」という名称は「白い恋人」から連想して創作されたであろうことは想像に難くない。
・ただし「みどりの恋人」「黒い恋人」「赤い恋人」「青い恋人」など「〇〇の恋人」という商標は数多く出願登録されている。
・商標出願に際して弁理士から商標が登録される可能性について事前にどのように吉本側に伝えられていたのか。

 大方の予想通り2011年11月に石屋製菓は吉本興業、よしもとクリエイティブ・エージェンシー、サンタプラネットの3社に対して「面白い恋人」の販売禁止を求めて商標権侵害と不正競争防止法を根拠に札幌地方裁判所に提訴した。

 「面白い恋人」を間違って買ってしまったという苦情が寄せられていたとのことである。


 これに対して吉本側は請求棄却を求めたが、2013年、吉本側がパッケージの図柄を変更し、販売は原則として関西6府県に限ることとし、賠償金は支払わないことで和解が成立した。


 因みに提訴により知名度があがったためか、人々が面白がってなのか、「面白い恋人」の販売数が提訴後に急激に伸びたとのことである。

【チェックポイント】
・石屋製菓側が最後まで争わず和解を選択したことは最善の選択だったのか。
・吉本側は販売地域を関西に限定される条件で和解したことは最善の選択だったのか。

 その後まもなく吉本側から石屋製菓にコラボ商品の開発販売の誘いがあった。これに対して石屋製菓はいったん断ったものの、その後、同社が大阪に直営店を出す際に逆に限定商品のコラボを吉本側にもちかけ誕生したのが「Laugh & Sweets ゆきどけ」である。

 石屋製菓のコンセプト“Love & Sweets”と吉本興業の“Laugh & Peace”と両者の和解の意味を取り入れたネーミングである。


 商標係争が商品コラボにまで発展したのは、両社の優れたビジネス感覚と経営判断のなせるところである。

 もし吉本興業ではない他社、あるいは外国企業が「面白い恋人」を商標出願したとしたらどうだっただろうか。

 SNSでさんざんに叩かれていたかもしれない。